患者またはその遺族が、医師に対して損害賠償責任を問えるのは、どのような場合ですか?
【事例】私の夫は、毎年精密検査を受けていたのですが、特に異常はないと言われ続けていました。ところが、突然手遅れのがんを宣告され、半年後に死亡しました。この医師や病院に対して責任を問うことはできるでしょうか。
【答え】医療事故は、ケースごとに事案が大きく異なり、医師や病院に賠償責任を問えるか簡単には判断できないことも少なくありません。
法的構成としては、医者に対しては、診療契約上の債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(民法709条)を根拠に請求し、病院に対しては使用者責任(民法715条)や履行補助者の責任(民法415条)を根拠に請求することになるでしょう。
なお、損害賠償請求権の行使は期間制限がありますので(債務不履行は10年、不法行為は3年)ご注意ください。
まず、損害賠償責任を認めさせるためには、医師の注意義務違反を認定することが必要です。医師は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践の場における医療水準を基準として、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を負うことになります。逆にいえば、高度先進医療等で医療水準に達していない医療行為については、医師は、これを実施すべき義務が無いことになります。どのような場合に医療水準と言えるかは裁判においても判断が難しく(全国一律のものではなく、個々の医療機関の規模や性格などによって個別的に判断されます)、医療過誤訴訟が困難な理由の一つといえるでしょう。
さらに、これ以外にも、義務違反が無かったならば結果発生を回避できたかという因果関係の存在も問題になります。因果関係が無ければ、仮に医師の注意義務違反を肯定できたとしても責任追及できないことになります。
医療過誤については、専門的な知識も必要とされるので、早めに弁護士に相談することが有用でしょう。