後遺障害認定について,被害者請求と事前認定の差異を教えてください。
事前認定とは,後遺障害の認定の手続きを,加害者の任意保険会社に行わせる方法です。被害者は自ら書類や資料を揃える手間がかかりませんので,手間がかかりません。
ただし,どのような書類を提出するかという点について,適正な認定を出してもらうための指導をしてくれるわけではなく,提出書類の精査も十分にできないので,被害者の希望通りの認定にならないことも生じえます。
被害者請求とは,被害者から任意保険会社を経由せず,直接自賠責保険会社に対して、後遺障害等級認定を申請する方法です。被害者側から直接自賠責保険に請求する分、被害者側が自ら書類や資料を揃える手間が発生します。
可能であれば,後遺障害等級認定は被害者請求の方法によるべきと考えます。被害者請求の場合,申請にあたって弁護士等の専門家に相談し,どのような書類を準備すれば最も認定を受けやすいか,準備をすることができます。加害者の任意保険会社としては,当然,被害者に支払う額が少ないほうがありがたいため,不誠実に事前認定をすることもあり得ます。
後遺障害の認定については,等級の内容によって賠償額に数百万の差が出ることが頻繁にあります。判断する前に事前に弁護士に相談することをお勧めします。
交通事故紛争処理センターのあっせん利用について教えてください
保険会社は,交渉によっては十分な賠償提案をしてこないことが多くあります。そのような場合,交渉を打ち切り,ほかの手段による解決を目指さざるを得なくなります。
取りうる手段としては,日弁連交通事故相談センターの示談あっせん利用,交通事故紛争処理センターの和解あっせんの利用,民事交通調停,訴訟など様々なものがありますが,この中でも弁護士がよく利用するものとしては交通事故紛争処理センター(いわゆる「紛セ」)があります。
交通事故紛争処理センターにあっせんを申し入れる場合,交通事故紛争処理センターに連絡したうえで必要書類を準備し,交通事故紛争処理センターの担当弁護士にこちらの主張が正しいことを説明します。議論が終わった段階で,交通事故紛争処理センターからのあっせん案が出されます。あっせん案に双方応じればそれにより解決しますし,拒否すれば審査に移行し,裁定案が再度出されます(なお,この裁定案については被害者は拒否できますが,交通事故紛争処理センターと協定のある保険会社は拒否できないことになっています)。
一般に,交通事故紛争処理センターは,被害者寄りの判断が出ることが多いとされていますが,それでも,ある程度は専門的見地から証拠をそろえる必要はあります。申し立てに当たっては弁護士に委任するほうが,増額を勝ち取れる可能性は高まるでしょう。
弁護士費用特約について教えてください。
弁護士費用特約とは,保険会社が提供する保険サービスの一種で,交通事故などにあってしまった場合,保険会社が弁護士費用等を支払ってくれるというものです。
保険会社によって異なりますが,一番多い類型としては,法律相談料として10万円まで,弁護士に委任する費用として300万円まで,保険会社に支払ってもらえるというものです(保険会社や契約内容によって対応が違うので,まずはご契約の任意保険会社にご相談ください。)。通常の案件であれば,十分に弁護士費用を賄える金額です。
弁護士費用特約を用いることで弁護士費用の負担なく,弁護士に委任して金額や過失割合の交渉をすることができます。軽度の物損事故の場合,弁護士としては受任してくれないことが間々あるかと思いますが,そのような場合でも弁護士特約を使用することで依頼をすることができるようになります。
また,弁護士費用以外でも,裁判を行う場合の印紙代や意見書作成費用などの実費についても,ケースによりますが負担をしてもらえることがあります。
誤解のある点ですが,弁護士費用特約は被害者に過失がある場合でも使用できますし,保険会社の紹介でない弁護士に依頼する場合でも使用できます。また,契約者以外でも家族の弁護士費用特約を使える時もありますので,自分に弁護士費用特約がないと思ってあきらめるまえに,家族の保険会社にも確認をしてみるといいと思います。
なお,弁護士費用特約を使用しても保険の等級が上がることはありません。
家族が交通事故で死亡してしまった場合,だれがどんな請求ができますか。
原則として,請求できる人は亡くなった方の相続人になります。例えば,亡くなった方に配偶者と子供がいる場合その方たちが相続人になります。子供がいなかった場合,子の代わりに親が相続人となり,子も親もいない場合兄弟姉妹が相続人になります(配偶者は常に相続人になります)。
請求項目としては,主に葬儀費用,死亡による逸失利益(事故に遭わず生きていれば得ていたであろう利益),死亡慰謝料(立場や個別のご事情によって異なりますが,おおむね2800~2000万円)などが挙げられます。また,死亡するまでの間に治療をした場合,治療費,入院雑費,休業損害,入通院慰謝料も請求できることになります。
これらの項目には,一定の基準があり,保険会社は得てして低い基準を使いたがります。
死亡事故の場合,請求額も高額になることが多いので,まずは弁護士に相談するのがいいでしょう。
交通事故の加害者が保険に入っていませんでした。被害者の私はどうすればいいですか?
【事例】
交通事故に遭ったのですが、加害者は、任意保険どころか自賠責保険にすら入っていませんでした。お金もないようなのですが、何かいい方法はありますか?
【答え】
加害者が任意保険に入っておらず、自賠責保険の上限を超える場合には、加害者の自己負担となりますが、このような場合であれば加害者に支払能力がないこともよくあるでしょう。自分の任意保険に「無保険車傷害条項」「人身傷害条項」などの条項があった場合、自分が加入している保険で損害の給付を受けることができる可能性があります。
まずは自分の保険会社に問い合わせてみてください。
加害者が自賠責保険にすら入っていなかった場合、当然のことですが、自賠責保険から損害賠償の支払いを受けることはできません。直接請求しようにも、資力がなくそれがかなわないことも多いでしょう。
このような場合、政府保障事業というものがあります。加害者が自賠責保険に入っていない場合やひき逃げにあって加害者不明である場合などの被害者救済のために、自賠責保険と同額まで支払いを補償してもらうというものです。
今回のケースでは、政府保障事業を利用して、十分でない場合は加害者に直接請求することになるでしょう。ただし、資力がないため、裁判に勝ったとしても回収ができない可能性もあります。
保険会社から治療費を打ち切ると言われたら、どうすればいいですか?
【事例】半年ほど前に交通事故に遭い、むちうち症と診断されました。それ以降、病院に通って治療しているのですが、加害者側の保険会社から治療費の支払いを打ち切る旨通告されました。まだ首が痛いので治療を続けたいのですが、どうすればいいのでしょうか?
【答え】
一般的には、むちうち症の治療期間は3カ月から半年とされています。その期間を超えた場合、保険会社から治療費の支払いを打ち切ると言われることがあります。これ以上治療を続けても改善を期待できないのであれば、医師に後遺障害診断書を書いてもらうことになります。
医師に後遺障害診断書を書いてもらった場合、それ以降の治療費の支払はなされません。そこで、保険会社から後遺障害診断書を書いてもらって下さいと言われたら、医師に自分の状態を伝え、医師が改善の見込みがあるというのであれば、そのまま治療を続けることがいいでしょう。これ以上の改善は期待できないと言われれば、後遺障害診断書を作成してもらうしかないでしょう。
治療費の打ち切り後も治療を続ける場合、その支払は自己負担になります(健康保険を使用できないと言われることがありますが、健康保険を使用することができます)。この場合、後に交渉や裁判で正当な治療と認められれば治療費の支払いを受け取ることができます。
通常,保険会社が打ち切りの有無を決める場合,医師に医療照会をかけます。そこで,保険会社が医療照会をする前に治療の必要性について医師とよく協議することが重要です。また,いったん打ち切られた治療は通常は復活しないので,打ち切られる前に弁護士に相談し,場合によっては保険会社と交渉してもらうことが肝要です。
自賠責保険と任意保険の違いについて教えてください。
【事例】自動車保険には自賠責保険と任意保険があると聞きましたが、補償範囲や請求の仕方などで違いがあるのでしょうか?
【答え】
任意保険は、あくまでも加入するかどうかは自由ですが、自賠責保険は、自動車損害賠償補償法(自賠法)によって契約の締結が義務付けられています。
任意保険には、物損事故も含まれ、また、広く自動車の所有、使用又は管理に起因する人身事故による損害を補償しますが、自賠責保険によって補償されるのは「運行によって」生じた他人の生命または身体に対する事故のみです。
したがって、人身事故の場合は自賠責保険の支払はなされません。
自賠法16条は、被害者から保険会社に対し損害賠償額の支払を直接請求することができると定められています。
任意保険においても被害者の直接請求は認められますが、保険会社の了解のもとで当事者間において損害賠償額について書面による合意が成立するなど一定の要件を満たした場合にのみ認められます。
現在の政令に基づく自賠責保険額は、死亡による損害に対し3000万円を、傷害による損害に対し120万円を上限とし、後遺障害に対しては75万円から3000万円の別途支払いがなされます。
それに対し、任意保険においては、契約によって各損害に対する支払限度額が決まってきます。
被害者に過失があった場合、その過失の割合に応じて賠償金の減額がなされます。任意保険では、この過失相殺が厳格に適用されることになります。
それに対し、自賠責保険では、被害者に重大な過失がある場合にのみ過失相殺による減額が行われます。7割未満の過失では減額はなく、それ以上の過失でも5割までしか過失相殺は行われません。
交通事故における被害者の過失について教えてください。
【事例】私は、横断歩道があったのにそれを利用することなく、近くを走って渡ったのですが、その際に自動車に跳ね飛ばされて大けがをしてしまいました。損賠請求の交渉中なのですが、私に過失があるから払う必要がないと言われてしまいました。その通りなのでしょうか?
【答え】
相手に損害賠償の義務があることは間違いありませんが、被害者側にも過失があれば賠償額は減額されます(民法722条2項、過失相殺)。
どの程度減額されるかは一律には言えませんが、裁判所で認められた過失割合を類型化し、基本的な割合が定められている書籍も存在します。通常のケースであれば、それを基に話し合いをすることになるでしょう。
今回のケースに関して言えば、横断歩道から20メートル以内のところであれば、概ね、被害者の過失割合は40パーセント程度になるでしょう。もっとも、それが夜であるか昼であるか、幹線道路であるか否か、住宅地であるか否かなど、様々な要素によって修正がかけられることになります。
加害者と交渉する場合は、過失割合の基本割合を念頭に交渉し、不当な要求に応じない心構えでいる必要があります。
人身事故に巻き込まれた際に請求できるお金の項目を教えてください。
【事例】私は、車を運転中、他の車に衝突され、病院に行きました。相手方保険会社に損害賠償請求をしようと思っているのですが、どのような請求ができますか?
【答え】人身事故の場合、主に、以下の項目が請求できます。実際には各々のケースによって異なりますので、弁護士にご相談ください。
① 治療費
事故で負傷した病院代は当然に請求できます。また、病状を証明するための診断書代も当然に請求できます。
ただし、怪我の治療のために鍼灸院や整骨院に行ったり、東洋医学による治療を受けた場合、保険会社との間で、必要な治療であったかが争いになる可能性があります。変わったケースでは、温泉治療費や言語障害の症状改善のためのスイミングスクール費用が問題になったケースがあります。
話し合いで決着がつかない場合、裁判をすることを余儀なくされます。治療の前に、保険会社に確認を取るのも一考でしょう。
② 入通院慰謝料
交通事故に遭って傷害を負った人が病院にどの程度入通院したかによって決められます。たとえば、2カ月入院、8カ月通院した場合、194万円の慰謝料を請求することができます(病状や通院ペースによって上下することはあります。特に、むちうち症で他覚症状が無い場合は基準が大幅に下がり、143万円程度になります)。
保険会社は独自の基準を持ち出し、慰謝料額を低く見積もってきますが、弁護士が入ることによってより有利な基準を使うことができます。
また、保険会社が、不必要な通院だと判断した場合も争いになります。この場合、裁判にせざるを得ないでしょう。
③ 入院雑費
入院雑費は、実際にかかった費用ではなく、1日1500円の基準で認められます(弁護士が入った場合)。実際にかかった費用が膨大で1500円ではカバーできないば場合、領収書を取って請求することになります。
④ 交通費
病院に通院するためにかかった費用も当然に請求できます。もっとも、不必要に交通費を使った場合は、より安い限度でのみ認められることもあります(たとえば、電車を利用することが可能であるのに、タクシーを使用した場合など)。
また、付添人が必要だった場合、その交通費も請求できる余地があります。
⑤ 付添看護費
病院の指示で付添人が必要とされた場合や、それ以外でも付添の必要があるとされた場合(たとえば乳幼児が被害者の場合)、付添看護費が認められます。職業付添人の場合は全額、近親者付添人の場合は1日6500円が認められるのが通例です(実際の態様によって増減します)。
⑥ 後遺傷害慰謝料
上に述べた入通院慰謝料とは別個の項目です。後遺障害(後遺症と急性期症状が治癒した後も、なお残ってしまった機能障害や神経症状などの症状や障害のこと)になってしまった場合に認められます。
保険会社基準と弁護士の基準で最も差がある項目といえます。例えば、もっとも軽傷な14級の場合でも、保険会社の基準は32万円~75万円程度であるのに対し、弁護士基準では110万円になります。
後遺障害の場合、特に弁護士が入る必要性のあるケースといえるでしょう。
⑦ 後遺障害逸失利益
後遺障害になった場合、運動能力が一定割合で喪失したとされます(たとえば、14級では5%の運動能力が喪失したことになります)。この割合に応じて、事故が無かった場合に比べてどの程度収入が減ったかによって決められます。
計算式は複雑で、資料も必要とされますので、正確な額は弁護士に計算してもらうことをお勧めします。
⑧ 休業損害
事故によって仕事を休まざるを得なかった場合、その分の減収を請求できます。現実の収入源が無くても、有給休暇を使用した場合、休業損害が認められます。さらに、ボーナスが支給されなくなってしまったり、昇進に響いた場合、その分も請求できる余地があります。
⑨ 弁護士費用
請求額の1割が認められます。実際に弁護士に支払った額がいくらであっても、請求額の1割になります。ただし、任意の交渉によってはまず認められず、裁判を提起した場合のみ認められるのが一般です。