別居中の夫が家庭に生活費を送ってくれません
離婚協議中の夫が,別居している妻に対し生活費を送ってくれないことはよくある話です。民法上,夫婦は,婚姻から生じる費用を分担する義務を負っており,それは別居中であっても,離婚協議中であっても変わりません。夫に対して,婚姻費用を請求することが可能です。
具体的にいくらの婚姻費用を請求できるかについては,夫婦間で決めることですが,その合意ができないことも珍しいことではありません。その場合,家庭裁判所に婚姻費用分担調停の申し立てを行い,調停委員の介入も受けながら,支払われるべき婚姻費用について話し合いを進めることになります。家庭裁判所で婚姻費用の額について話し合いを行う場合,「養育費・婚姻費用の算定方法及び算定表」(判例タイムズ111号285ページ)により,簡易迅速に決めることが大半です。
なお,婚姻費用を決めた場合でも確実な支払われないこともあります。確実な支払いをしてもらうためには,公証役場で強制執行認諾文言付公正証書を作成するか,調停で合意することで,強制執行をできる体制にしておくことが重要でしょう。
別居するにあたっての留意点
離婚協議をするに先立って,夫婦が別居することは実務上よく行われています。
民法上,別居する場合でも,夫婦は,婚姻から生じる費用を分担する義務を負います。別居した場合でも,収入の多い側は少ない側に対し,婚姻費用を請求することが可能です。婚姻費用は,協議で決めるのが基本ですが,協議ができない場合や合意できない場合,婚姻費用分担請求調停を提起し,裁判所で妥当な婚姻費用の額を定めることになります。
別居する場合,子供をどうするかというお悩みをお持ちの方がいらっしゃいます。離婚後に子供の親権者となりたいとお考えであれば,別居にあたって子供を連れたほうが,後に行われる離婚の協議で有利になる可能性が高くなるように思います。ただし,あくまで子供の意思を最優先すべきですので,子供の意思を無視して無理やりに子供を連れだすようなことは許されません。
同居をしようとしない夫に同居を強制したい
民法752条において,夫婦は同居する義務があることが定められています。夫婦の一方が正当な理由なく同居に応じようとしない場合,家庭裁判所に対し同居を求める調停を起こすことが可能です。調停で話し合いがまとまらない場合,自動的に審判手続きに移行し夫婦間の諸事情(婚姻の破綻の有無や離婚意思の有無など)を考慮し,同居を命ずるか否かが決まります。
同居を命ずる審判が出た場合,任意に応じればいいのですが,審判に応じようとしない場合,対応が非常に難しくなります。同居義務は,夫婦が自由な意思に基づいて実現する義務と考えられており,強制執行をすることができません。その場合,審判が出た場合でも最終的に同居させることができないことになってしまいます。現在の法制度の欠点と言えるかもしれません。
なお,同居義務を果たさないことは,民法上の離婚原因(離婚訴訟で離婚請求が認められる要件)になります。
婚約を破棄された場合の損害賠償
婚約は,契約の一種と考えられています。よって,婚約を正当な理由なく破棄した場合,債務不履行ないし不法行為を根拠に,損害賠償請求(慰謝料請求)をすることが可能です。
まず問題になるのは,婚約が本当に成立しているか,という点です。婚約が成立しているか否かは,結納の有無や結婚式場の下見の有無,婚約指輪のやり取りや親への挨拶など,様々な要素によって決まります。基本的には当事者の結婚への合意のみで足りるのですが,他,上記した様な要素を間接事実として主張することになります。
婚約破棄が正当な理由に基づく場合は,破棄された場合であっても損害賠償請求が棄却されることもあります。例えば,婚約者から暴力を振るわれたり不貞があった場合など,夫婦共同生活の円満の遂行が不可能である場合です。
損害賠償請求が可能な場合,慰謝料(精神的苦痛)のほか,結婚式場のキャンセル費用や家具購入のための費用も含まれます。婚約破棄と因果関係がある範囲の請求はできますが,その有無の判断は一概には難しいところです。慰謝料額はケースバイケースですが,一般的な事案であれば100万前後と判断されることが多いように思います。
配偶者の不倫相手に慰謝料を求めたい・・・
【事例】私は、夫と結婚し15年になりますが、調査会社に調査を依頼したところ、1年ほど前から、会社の部下の女性と性的関係をもった交際を続けていることがわかりました。夫との離婚は望んでいないのですが、不倫相手の女性に対し慰謝料請求をすることができるでしょうか。
【答え】配偶者のあるものは、不貞行為(配偶者以外の異性と性的関係を持つこと)を行わない義務が法律上課されています。その結果、第三者が配偶者と不貞行為を行った場合、他方配偶者はその第三者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます(最高裁判所昭和54年3月30日判決)。なお、ここでは問題なっていませんが、離婚の原因にもなります。
しかし、いかなる場合においても慰謝料請求が認められるわけではありません。不貞行為が行われたときに、既に夫婦の婚姻関係が破綻していた場合には、特段の事情のない場合、慰謝料請求をすることはできないと考えられています(最高裁判所平成8年3月26日判決)。
また、不貞行為の発端が不定配偶者が暴行脅迫を加えて関係を強要したというケースで、妻から不貞の相手方女性に対する慰謝料請求が認められなかったというものもあります。
損害賠償請求をするにあたっては、必ずしも裁判所の手続き(調停や裁判)を利用する必要はありませんが、当事者間での合意ができない場合、裁判所の手続きを利用せざるを得ないでしょう。
法律相談において最も質問が多いのが、具体的な慰謝料の額です。慰謝料の金額は、不貞の相手方が配偶者との関係にどれだけ積極的に関わったか、婚姻生活がどう影響されたか(離婚をする羽目になったかどうか)、不貞行為をしていない配偶者の落ち度の有無程度、不貞の態様、子供への影響、反省・謝罪の有無など、様々な要素が影響して決せられます。
具体的な金額については一概には言えませんが、概ね200万円から300万円程度が一応の目安になるでしょう。不貞の態様によっては50万円しか認められないこともあれば、1000万円以上の高額慰謝料が認められることもあり得ます。
慰謝料の額については、参考になる裁判例もありますので、法律相談などで弁護士に相場を聞くことを検討してもいいかもしれません。
夫婦で別の名字を名乗りたいのですが・・・
【事例】私はもうすぐ結婚する予定です。結婚後は名字を変えないといけないのでしょうか。夫婦別姓は許されますか。
【答え】民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定しており、結婚をするときに夫婦のどちらかが結婚前の姓を変えなければならないことが規定されています(夫婦同姓の強制)。
このような規定が設けられた根拠は、夫婦同姓となることによって、対外的に夫婦であることが明確になること、一体感が生まれることなどが挙げられます。
しかし、社会の移り変わりとともに、氏の変更を伴う結婚に抵抗感を感じる人が増えてきており、生活上仕事上の不便・不利益を生じさせることもあります。夫婦同姓とすることも別姓とすることもそれぞれの価値観に基づいて決せられる問題であり、価値観が多様化した現代において一つの価値観を全ての人に強制することは妥当でないという考えが現れました。
そこで、夫婦の両方が姓を変えることなく結婚することを認める選択的夫婦別姓制度の導入が検討され始めています。この制度について、民法改正案が何度か国会に提出されていますが、反対意見も強く、いまだに法制化されていません。
現在の制度において結婚後も姓を維持する方法としては、通称として旧姓を使い続ける方法があります。結婚後も仕事を続ける方は、通称を使用する方も多く社会的にも認知されています。パスポートなども通称併記が可能となっており、仕事上の不便・不利益も一定限度にとどめることができます。
ただし、企業の中には事務手続きが煩雑になるとか社員管理に支障が出るなどの理由から通称使用を認めていないところもあります。さらに、公的な書面では通称が使えない等通称使用の範囲が限られておりますので、使い分けの負担があることは否定できません。
このように通称使用には各種の問題点があり、制度化したとしてもなお限界があると言わざるを得ません。
また、婚姻届を提出せず、事実婚を選択し、夫婦別姓を実践しているカップルもいます。ただし、婚姻届を提出しないため配偶者は法定相続人とならず遺産相続の権利は保障されません(民法900条)。2人の間に生まれた子供は非嫡出子となり(民法772条)、相続分で嫡出子と比べて不利益を被ることもあります(民法900条4号但し書き)。